火原・福原研究室│東京科学大学理学院化学系

研究内容

有機フッ素化合物

ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)、パーフルオロオクタン酸(PFOA)やパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)のような有機フッ素化合物は、他の化合物群では実現できない特性をもつため幅広く利用されている。しかし、分子構造まで立ち返って、この特性を物理化学的に説明することは必ずしも上手くいっていない。
パーフルオロアルキル鎖(Rf: CF3(CF2)n-)の主な特徴は、-CF2-のC-F間の大きな電気双極子(dipole)と、H原子に比べてF原子の半径が大きく立体障害が存在することによるねじれ(らせん)構造である。この特徴からRf鎖同士の分子間相互作用は、van der Waals相互作用のうち(分散効果ではなく)dipoleによる配向効果が主な効果であると考えられる。らせん構造がどの程度ねじれるかは、Rf鎖長によるので、有機フッ素系でよく観察される物性の閾値的鎖長依存もこの特徴から理解される。PTFEのような長鎖Rf鎖の場合の分子間相互作用は非常に強く、通常の条件では水も油もこの結合を解くことはできない。(撥水撥油の原理)
このような説明は、分子の一次構造を見ているだけでは難しく、(一次構造に基づく)分子集合の性質を考えて初めて議論出来る。われわれのグループでは、有機フッ素化合物の特徴を正しく理解し活用する分析化学や化学プロセスを研究している。

分離表面・センサー表面 Rf鎖の-CF2-基は大きなdipoleをもっており、液相中での分離・センシングに活用出来る可能性を秘めています。このために、表面修飾法や修飾表面における吸着状態の解析など、物理化学・界面化学・分析化学の視点から実験的研究を進めています。
 サブモノレイヤー密度でRf修飾した表面では、大きな双極子モーメントが固液界面での吸着現象に影響を与えることを見いだした[2]。この表面を利用した液体クロマトグラフィーカラムを作製している。

固体高分子の回収とリサイクル 有機フッ素系ポリマーのリサイクルは炭化水素系ポリマーに比べて困難です。固体を微細化したときの表面状態・バルク相の状態の解析などを進め、高分子のまま、固体のままリサイクルするプロセスの基礎となる化学的解析法を研究しています。
 NaClとPTFEの混合粉末を遊星ボールミリングにより粉砕すると、PTFEの強固な分子集合がほどけ、マテリアルリサイクルに利用できる可能性があることを見いだした。ここで起こっているメカノケミカル過程を様々な分析法により解析し原理解明をすすめるとともに、よりマテリアルリサイクルに相応しい条件についても研究している。




参考文献

 

 

1) Physicochemical Nature of Perfluoroalkyl Compounds Induced by Fluorine.
Hasegawa, T.:
Chem. Rec. 17, 903?917 (2017). https://doi.org/10.1002/TCR.201700018
2) High perfluorooctanoic acid adsorption performance of sub-monolayer fluoroalkylsilane on silicon wafers
Yao Li, Mao Fukuyama, Takeshi Hasegawa, Motohiro Kasuya, Akihide Hibara* 
Langmuir, 2025, 41, 27, 17566-17572.  DOI: 10.1021/acs.langmuir.5c01080
3) Mechanochemical processing of polytetrafluoroethylene with NaCl crystal
Shogo Nishimura, Yao Li, Yuta Semba, Akihide Hibara*, Tomoya Oonuki, Takeshi Hasegawa*, and Junya Kano* 
Bulletin of Chemical Society of Japan, 2025, uoaf029..  https://doi.org/10.1093/bulcsj/uoaf029